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二十一時になった。俺は車庫の運転席にいた。頭上の車内ライトを点ける。助手席のシートにあるアタッシュケースを開ける。
中から、暗視スコープつきハンディカムを取り出した。太ももの上で、高性能な集音マイクのケーブルとハンディカムをつなげていた。
撮影機材の準備は済んだ。これらは全て私品、民間仕様の高級品だ。ネット通販で購入した。
俺の服は紺色なので、夜、遠くからなら、肉眼で見つけることは、まず不可能だろう。必要に応じて蛍光ベストを羽織る。
ハンディカムは、助手席のシートにしっかり置く。
最後に、物騒だが、スタンガン。催涙スプレー。手錠。GPS発信機兼無線機を、服のポケットに入れる。
「ドア開け」
音声リモコンで駐車場のシャッターが上がって行く。月明かりで駐車場のコンクリートが、照らされている。
銀盤のような満月だ。ハンドルを握れば、無線機のスイッチが入る。
「こちら、ケーユー27号。佐藤、出発します」
「佐藤さん、お気をつけて」
声の主は女性だった。本部の山本さんだ。
「山本さん、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「山本さん、もう少し、話しませんか?」
「今夜はひとりなんです。失礼します」
通話が終わった。もっと話していたかった。
車は明るいく広い道に出た。相棒のビデオカメラを載せ、安全速度でかっ飛ばす。対向車線には、一台も通らない。車窓から淡く差し込む月明かりが、車内を優しく照らす。
目的地の”きょうせい公園”近くの路上で、ヘッドライトなどは全て消す。気配を悟られてはならない。この緊張感で心臓の拍動が高まる。
公園の東側外縁で車を止めた。植林され、森のようになっている。
ハンディカムを抱えながら、車を降り、音がしないようにドアを閉めた。下生えを踏みながら、大樹に体を預ける。ハンディカムを公園内に向って構える。液晶モニターを覗くと、昼間のように公園内が明るく見える。ここから見渡した限り、今夜は誰も居ない。
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