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このお風呂は、大翔と初めての夜を過ごした、あのラブホのバスルームに似ている。
色彩とか、雰囲気が。
それで、こんなふうに思い出してしまうんだろう。忘れたい事ばかり、お風呂の中で、次々に押し寄せてくるのだ。容赦なく。
胸に溜まっているものを一気に吐き出せたら、どんなに楽になるだろう。
そう思う一方で、あふれるものが止まらなくなる恐れもあった。
泣きたい。ちょっと、泣いてみようかな。
そう思って、ぽたぽた天井から滴が垂れる湯船の中で、そっと目を閉じてみた。
胸がぐっとつまり、喉のほうまで熱くなったけれど、涙はまだ、出てこなかった。
ざざん、ざざん。
穏やかな波の音が打ち寄せてくる。
まだまだ、時間が必要なのかもしれない。
(明日はおかんが来るのか)
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