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気が付いた時、知らない天井が目の上にあった。
なんだかよい匂いがしている。綺麗なシャンデリアがぶらさがっていて、とても素敵な場所みたいだ。
体を包むふとんも雲みたいに心地よい。ああ、ついに死んじゃったんだ、と、思った。その途端、頭の中に浮かんだのは、田舎の家族の事だった。
母ちゃんと、弟の太郎が、駅まで送りに来てくれて、ホームでにこにこにこにこ笑いながら「お盆休みに戻っておいでー」と手を振っている姿。
ゴールデンウィークに一回、うちに帰ったのだ。すごく楽しい休暇だった。わたしは大翔と一緒だった。大翔も笑顔で「また参ります」と言っていたっけ。
ずきんずきんと胸が痛む。
あー、癒えていない。死んでも癒えない傷ってあるんだわ。
死んだら人生の記憶が全部リセットしてくれたらいいのに。そう思っていたら、なんだか涙が滲んだ。
「あれっ、目が覚めてるわよこの子ぉ」
じっとりと浸って泣いているのに、なんか野太いオネエ声がした。
嫌だなあ、天国なんだから、野太いオネエ声は、ない。思わず顔をしかめたら、べちべちべちんと掌で顔をはたかれた。
「狸寝入りしてんじゃないわよー、小便臭い小娘がー、このー」
ぶるるんぶるるん。胸倉までつかまれて、揺さぶりまくられてた。いきなり何事か。
どうやらここは天国ではないらしい。わたしは目を開いた。そしたら、鼻が触れ合うほどの至近距離に、おひげをダンディーにはやした、日焼けしてワイルドなイケメンさんが目を三角にしていた。
ぎゃー、と、わたしは叫んだ。
「ぎゃー」
イケメンさんも叫ぶと、わたしの胸倉を放り出した。羽根布団の上に叩き落されて、わたしは正気を取り戻した。
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