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かちゃんと穏やかに部屋の扉が開いた。
ベッドにしがみつき、オネエ言葉のイケメンさんに怯えていたわたしは、半べそで振り向いた。
スリムジーンズに白いTシャツの、爽やかな素敵なひとが、薔薇のように微笑んでいる。さらっと風もないのに前髪が揺れている。うわあ王子様みたい。
「良かった、目が覚めたんだね」
と、彼は言った。
「だめよ浦島。狸寝入りして、隙あらばアンタに介抱されようともくろんでいたのに違いないわ、この小便臭いメスは」
と、オネエイケメンは言った。
彼は微笑みながら近づいた。筋肉質なオネエと並ぶと、ほんとうに壊れ物みたい。華奢で綺麗で儚い。すごい美青年だった。
「山野花子さん。25歳。君は学びの階段の中途にいるね。僕が君を助けたのは運命らしい」
と、彼は言った。
どうしてわたしのこと知ってるんですか、と、反射的に質問したら、彼はにっこりとして「見えるんだよ、僕は」と言った。そして、白いTシャツにプリントされているロゴみたいなものをぴらっと広げて見せてくれた。
「癒しの浦島」。カメが可愛らしくちりばめられた、お洒落なロゴだ。
あ、助けてくれたんだ、この人が。わたしは砂浜の中で倒れていたんだった。
やっと、わたしは思い出した。そうだった、死ぬところだったんだ。
ということは、この素敵なお部屋は、この人のおうちだろうか。
わたしの戸惑いを全て見抜いているかのように彼は頷いた。優しい表情、澄んだ瞳。向き合っているだけで心が満たされるみたい。なんて素敵な人なんだろう。
「浦島は、浜で困っているものは何でも助けちゃんだからあ」
と、オネエはぶつぶつ言っている。
「はじめまして、花子さん。僕は浦島。こっちはカメだよ。いろいろ思う所はあるかもしれないけれど、体が癒えるまでは、そこで休んでいてね」
と、浦島さんは言った。
浦島だと。カメだと。
とりあえず助けてもらったお礼を言わなくてはなるまい。けれど、頭が混乱して、うまく口が回らない。
茫然としていると、びちゃんと滴が立つような乱暴さで、冷たいお茶が目の前に差し出された。
オネエのカメさんが、濃いイケメン顔をしかめさせて、グラスを突き出している。
「飲みなさいよ、小娘」
と、カメさんは言った。
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