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お風呂場で泣けるようになるまで
あんたなんか、この部屋で十分よと、かめさんが与えてくれた部屋は、四畳半に満たない狭さだった。もともとはクローゼットルームだったのかもしれない。
それでも窓がついていたし、圧倒されるほどラブリーな薔薇柄のカーテンもあしらわれていた。パイプベッドはプリンセスっぽいデザインで、安っぽいけれど可愛かった。タンスもあったし、壁には時計やミラーもかけてあった。そのどれもこれもが、お花やハートや小鳥さんで彩られていて、ザ・乙女な部屋となっていた。
(かめさんの見立てに違いない)
それにしても、昨日の今日で、よくここまで準備ができる。
このあたりは何もないらしいし、お店があるところまで結構な距離があるだろう。かめさんは、いつ買い物にいったのか。
(きっと、浦島家には自家用車があるのに違いない)
わたしは思った。なぜなら、このあたりでは、バスは二日に一本ぐらいしか停まらなかったからだ。
戻って来たカバンから着替えを出してタンスに入れた。タオルの類は浦島家のものを借りさせてもらう。
今からお風呂だ。
「花子、風呂に入りなさいよね。あんた乙姫並みにくちゃいから」
と、かめさんに言われたからだ。それじゃあと思って支度して風呂場に行ってみたら、先客がいた。
ざぶざぶん。ざあああああ。
お湯の音とか、シャワーの音とか。それに混じって「う、ふふん、う、ふふん、うふふの、ふ」と、とても有名なメロディーが麗しい鼻唄で聞こえて来た。
昔懐かしい、あの童謡。助けたかめに背負われて、竜宮城に、うふふのふ。
あ、浦島さん入ってるのね、と理解した。
そっと扉から離れようとしたら、どすんと何かに突き当たった。振り向いたら、大魔神のようにかめさんが腕組みして立っていたので、わたしはぎゃっと叫んだ。
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