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おかんがやって来た 前編
朝食時、オカンが挨拶に来ることを、おそるおそる浦島さんに話したら、にっこり笑って「そっか、良かったね」と言われた。
たったそれだけで終わってしまった。ほっとするやら、あっけないやら。
浦島さんは、ものをあれこれ聞くことはしない。おかんの訪問についても、普通なら、どこから来るのとか、何時ごろとか聞きたがると思う。もしかしたら「お母さん何してるひと」「いくつくらい」などと、聞く人もいるかもしれない。
そういえば、浦島さんは最初からわたしの事情を全部見抜いているみたいだった。「僕は見えるから」と、さらっと流していたけれど。
(浦島さんは、透視能力を持っているのか)
占い師やらスピリチュアルヒーラーとか肩書を持っていらっしゃるし。きっと、底知れないんだわ。
かちゃかちゃ。
朝ごはんの席は和やかだ。バルコニーは心地よい。お昼になると蒸し暑くなるけれど、朝ごはんはやっぱりバルコニーが最高。
「これ美味しいね、花子さんが作ったんだよね」
と、浦島さんがベーコンエッグについて褒めてくれた。ぱあっと、小さいお花が飛び散るみたいだ。微笑みを向けられて、わたしは一気にどぎまぎした。
おそるおそる、もう片方の住人を見た。
毒舌オネエのかめさん。わたしの朝ごはんをどうジャッジするか。
かめさんは温かくて包容力があって現実的で、すごくいい人なんだけど、やっぱり何かと怖い。浦島さんをめぐる嫉妬は、常に予想の斜め上をいく。今だって浦島さんが褒めてくれたから、むかむかしているかもしれない。
ちらっと見たら、彫の深いワイルドイケメン顔が、鋭い目でこちらを見ているところだった。かめさんは、味噌汁のお椀を持ち、すごくもの言いたげだった。
「きゅうり」
と、かめさんは言った。
「きゅっ」
心臓が爆発しそうになっていたわたしは、オウム返ししようとして舌を噛んだ。痛い。
味噌汁の具のことか。冷蔵庫にお野菜があまり残ってなかったから、きゅうりを入れたのだ。
実家の田舎では味噌汁や煮物にきゅうりを使う。確かに好みが分かれるかもしれない。
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