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時刻は会議十分前。会議室に行かなければならないはずの俺と青は今だに風紀室にいた。
「夏目先輩っ! 俺も連れてってください!」
「青~~、もうなんでもいいから早くして~~」
「なんでもいいってなんですか! あんたが頼りないのが悪いんでしょ!」
というのも神谷が俺たちに絡んできているからである。いや、俺にという方が適切か。どうやら頼りなさげな俺が会議に参加できて自分は参加できないのが納得いかないらしい。一応今回の会議は風紀二名、生徒会二名の計四名で行う会議なのだが。通例で行くと風紀委員長、風紀副委員長、生徒会長、生徒会副会長の四名となる。
「先輩っ! 生徒会だって新歓の経費説明のために会計を付けてきますって! 風紀だって一人くらい次年度役持ちになりそうな後輩を連れていってもいいはずです!」
恐らく会計は資料を予めまとめて会長の方に手渡し説明しているはずだから会議には来ないだろう。資料を見るに毎年そのように執り行われているようだから今年だけ例外的にそのような形で、ということはないと思う。
神谷だって分かっているだろうに尚も青に言い募る。しつこい神谷に青の視線が冷たくなったのを見て、俺は口を挟んだ。
「もういいよ、連れていけば? その代わり神谷、自分で生徒会に出席する理由を話すんだよ」
ニコリ、笑った俺に神谷は呆然とした表情をするも、ハッと我に返って俺を睨みつけた。
「アンタに言われなくてもそうしますっ!」
「へいへい。それじゃ行こうぜ。青、会議室ってどこだ」
「……南校舎の方だ。ここからじゃ少し遠い。急ぐぞ」
青は苦々しそうな顔をし、資料を持って立ち上がる。神谷が慌ててその大半を引き受ける。
「神谷」
「はい」
風紀室を施錠し、青は神谷に声を掛ける。
「自分の言動には重々責任を持つことだな」
青の言葉に神谷は勢いよく返事をする。そのキラキラした表情から察するに、生徒会にキチンと説明できるなら会議に同席することを許すという許可が委員長公認のものとなったと思っているようだ。
俺はあちゃーと額を抑える。これは青、かなり怒ってるぞ。
神谷は分かっていないようだが、青が責任を持てと言ったのは『俺が青に勝ったら俺を副委員長と認める』という発言に対してだ。
出会い方が出会い方だったからか青は俺に対してかなり甘い。それはもう保護者かというくらいには甘い。怒りが収まる理由が俺であれば怒る理由も俺である。青を尊敬しているがゆえに急に現れた俺を排除したくなる気持ちは理解できるが、このままだと青の怒りが神谷に向きかねない。
神谷は俺を嫌っているようだが、coloredの最年少である桃に似たこの後輩を俺はそこまで嫌っていなかった。抱く感想は「元気だなぁ」というのが関の山である。しかし青の方はそうもいかないだろう。なんとか青が爆発しないようにうまいこと気を逸らす必要がありそうだ。
*
会議室に着くと、生徒会の面々はすでに揃っていた。生徒会長の円、それと副会長の、補佐さん改め田辺。田辺は手をひらりと振り、「久しぶり。入寮の日以来だね」と声を掛けてくれる。返事をし、着席する。青も着席し、ちらりと神谷に目を向ける。厳しいその瞳に圧されるように神谷は一歩前に出る。
「風紀委員一年の神谷瑛成(テルナリ)ですっ! 次年度のために勉強させていただきたく! 同席させていただけないでしょうか!」
ぺこり! と勢いよく頭を下げる神谷に、田辺は困惑しながらも許可を出す。今回の会議はある程度決まっている内容を詰めるだけの小規模なものだ。それゆえなぜそこまでの熱意を持って挑まれているのか理解できないのだろう。俺も敵意に対して鈍感だったらそっち側の人間だったに違いない。尤もここまで露骨な敵意に気づくなという方が無理な話だが。
「まぁ、勉強熱心な一年が一人紛れるくらいいいんじゃないか? それより会議を始めよう、時間が惜しい」
円が無表情で一同を促す。神谷は「ありがとうございますっ」と礼を言い下座の席に座った。座る際に俺の方に得意げな笑みを見せるのを忘れない。本当、桃に似てるな。主に手のかかる弟みたいな雰囲気が。流石に桃はここまで刺々しくない。
「生徒会の方で決めた出し物は鬼ごっこだ」
「鬼ごっこ?」
「えっ」
毎年そうなのかな、と思ったが青と神谷の反応を見るにこれは例年と異なる催しであるらしい。
そりゃそうだよな、あんな遊び普通しようとは思わない。青にそっと耳打ちをする。
「なぁ、鬼ごっこなんてして問題は起こらないのか? あれって小さい時だから許されるような遊びだろ?」
「まぁ多少警備は大変になるだろうがいいんじゃないか? 安全面の細かい話は今から詰めていくし、童心に返れる遊びで楽しめると思うぞ?」
何やら俺の言いたいことが伝わっていないらしいと首を傾げると、青もどうしたの、という風に首を傾げる。
「なぁ、俺の地域の鬼ごっこは、鬼が逃げる人にカンチョーしたら交代だったんだけどお前のとこは違うのか?」
「ブッフォ!!!」
「ハァ!!!??」
青が吹いた。密かに話を聞いていた神谷も叫んだ。なんだ、なにか変なこと言ったか。
「ちなみにこおり鬼はタッチされた逃亡者が凍ってる間鬼は好きにしていいっていうルールだったし、ケイドロも捕まったドロボーを警察は好きにしていいっていうルールだったぞ?」
「普通じゃないです!!」
ぽかんとしている俺に神谷はズカズカと詰め寄ってくる。
「先輩、それって誰と遊んでたんですか。桜楠さまも一緒に遊んでたんですか」
「えっ、いや、小学生低学年のころだから一緒じゃないけど。知らないお兄さんとか、たまにオジサンもいたような」
「それみんな変質者ですよ……」
青は鬼の形相で俺に一緒に遊んでいた人達の特徴を聞きだしてくる。申し訳ないがある時からパタリと来なくなった人達のことなんてよく覚えていない。あの人たちが変質者だというなら恐らく家の者が事態に気づいて内々に処理したのだろう。
俺のルールを説明する件を聞いていなかった生徒会の面々は何が起こっているのか分からず疑問符を飛ばしている。そんな面々を放って二人は俺に質問攻めだ。
「……聞きにくいが、性的なことはされなかったのか」
「だって俺一回も負けてないし……」
なるほど、好きにしていい方の役が一度も回ってこないのはそういうことだったらしい。自分が何も被害に遭っていないから今日まで気づけなかったのだが、あれは一般的な遊びではなかったようである。
「運がいいのか悪いのか分からないですね……」
「俺が負けなかったのは俺の実力だけどな」
「そういうことじゃ! ないんですよ!!」
俺のことを敵視しているはずの神谷にまで怒られた。解せぬ。
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