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 青に手を引かれ、ヘリコプターから降りる。自然なエスコートに手を委ねてしまったが、友人としてこれはセーフだろうか。それにしても、と後ろを振り返る。降りたばかりの機体にはNatsume Hospitalのロゴがプリントされている。答えを聞いた瞬間の青の表情を思い出し、気恥ずかしさにムッとする。本当に、どこまで俺のことを信用してんだか。不思議と心は浮足立った。 「会うに決まってるだろ」  満足そうな笑みは『言うと思ってた』とでも言いたげだ。正直面白くない。子供のような反骨心は直後飛び出た言葉に消し飛ぶ。 「それで、うちのヘリを学園のヘリポートに停めてるんだけどさ。いつ向かう?」 「えっ?」  ヘリポートに停めてる? それって誇張でも何でもなく『言うと思ってた』ってことじゃないか?  普段通りの語調で告げる青は、俺の視線に「ん?」と首を傾げる。なんで心底不思議そうなんだよ。 「……、クラスの打ち上げに軽く参加してからでいいか」 「帰りが遅くなるぞ」 「いい、外泊届出す。今日土曜日だし、明日学園に戻ることにする」 「ふは、確かに」  じゃあ、五時ごろに。  そう言い合わせてヘリコプターに乗って――やってきたのは『夏目記念病院』。ヘリポートから病棟に入り、病室に向かう。なるほど、橙に分からなくて青に居場所が分かる訳だ。 「面会の許可は取ってる」  誰に? 言いかけた疑問を慌てて飲み込む。代わりに一つ、疑問を吐いた。 「夏目はさ、死んでる人間にお礼を言う時ってどんな時だと思う?」 「………、そうだな」  眉間に皺をよせ暫く考えていた青は、ぽつりと答えを口にする。  ――相手を、愛おしいと思った時じゃないか? 「は、」    予想外の言葉に唖然とする。答え合わせのつもりで聞いたのに、まさかそんなことを言われるとは。青らしいといえば青らしい。きっと、答えなんて人によって違うのだ。青が死人に礼を言う時は、その人を愛おしいと思った時なんだろう。 「……夏目は、俺が死んだ後に名前を呼ぶかな」 「呼ぶに決まってる。それこそ、うるさい!って帰ってきたくなるまで呼ぶからな。」 「……そっか。そりゃいいな」    呼んで、ほしいなぁ。  自分は夏目と呼ぶくせに。身勝手さに自嘲する。首を振って病室の扉をノックする。はぁいと返ってきた返事は、子供のころの母の声をしていた。期待しては沈む。三浦の答え、青の答え。扉を開けたその先で何が待っているのか、俺は薄っすらと理解していた。緊張に足が竦む。 「大丈夫」  青が俺の手を握る。ほんのりと温かい人肌に、ふっと力が抜ける。励まされて歩を進めると、部屋の奥の方にベッドが見えた。母はそこに、腰掛けている。 「一秀、どうかした? ――って、あら?」  弾む声と、優し気な響き。きょとんとした双眼が俺を見遣る。一瞬視線を落とした母は、隣の青を認めると短く嘆息する。観念したという面持ち。意志の籠められた真っすぐな瞳が俺を貫く。 「久しぶりね、由。私のかわいい子」
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