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6-11
学園は遠い。帰る前にデートでもする?という青の提案にあわや頷くところだったが、山奥深くへ向かうことを思うとそうもいかない。青は少し残念そうにしていたもののちょっとした冗談だったのか、困ったように笑う。俺の手を引きヘリへ乗り込むと、青はポツリと呟く。
「色々、考えちゃうよな」
本当に、よく見ている。帰路へと想いを馳せるなり、考えが止まらなかった。母さんの病気のこと。円に告げるか、告げないか。告白イベントで喧嘩した牧田のこと。青とのこれから。後回しにした事が多すぎて、どこから手をつけたらよいかすらも分からない。何も分からない俺は、返事をする代わりに握られたままの青の手を強く握り返す。この世で一人ぼっちになったかのような孤独感に、胸が締め付けられた。
「どうしたら、」
無意識に頼りかけた自分にギョッとし、口をつぐむと、青が促すようにこちらを見る。俺の弱さを受け入れているような眼差しに励まされ、言葉の続きが声となる。
「どうしたら、いいのかな」
口に出してはみたものの、どうも落ち着かない。こんなどうにもならないことを口に出して、それこそどうしたら、だと内心自嘲する。
「やっぱりなし」
自己嫌悪に取り消す言葉を口に出すと、青は俺の手にキスを落とし、そのまま頬を寄せる。
「俺は嬉しいよ。赤はいつも自分がどうするか決めてから俺たちに話すだろ。だから、なんていうんだろ。初めて見る姿でキュンときちゃった、……みたいな」
「ふは、」
全く予期していなかった言葉に思わず笑みがこぼれる。予想だにしていなかった感想だが、緊張で強ばっていた心が一気に楽になったのは確かだった。くっついた頬を離し、青に向かって首を傾げる。
「キュンとすんの?」
「かわいいなって」
「~~~~~っ、からかうな…!」
冗談交じりの問いかけに真顔で頷かれ、羞恥に毒づく。ちょっとふざけてみたらこのザマだ。天然タラシと呟くと、「どっちが」と呆れた顔がこちらを見た。どっちがって、そりゃ青のことだろうに。
窓の外に目を向けると、先ほどまでいた街が遠くの方へと走っていた。昨夜よく眠れなかったからか、青は疲れの滲んだ目を閉じる。寝たのだろうか。落ち着いた呼吸は寝息のようにも聞こえて、よく分からない。試しに指先を握ってみせるも、反応はない。無防備な姿に胸がときめいた。
「……すき」
小さく呟き、再び指先を握る。むず痒そうに表情を崩した青に、フフと笑みが漏れる。かわいい、好き。
「あの~……由さん?」
上機嫌で青を眺めていると、薄っすらと青の目が開かれる。
「あんまかわいいことされたら寝れないんだけど」
「んわァ?!」
起きてた。反応ないから寝たんだと思ってたのに起きてた!
機内の狭いスペースでできる限りの距離をとる。恥ずかしさで心臓が喉元までせりあがるかのような錯覚がした。ドキドキという心音が大きい。今どこか怪我したら出血多量で危ないのではという現実逃避すらしてしまう。
青は俺がしていたようにそっと俺の指先を握り、口角を持ち上げる。
「俺も好き」
キャパオーバーで気絶しそう。
ぐっと叫びそうになる気持ちを飲み込んで、笑みを作る。余裕のある笑みの下では心臓が激しくステップを踏んでいた。相変わらず握られたままの指先からは眠気のためだろうか、ほんのりと温かな体温が伝わってくる。変に意識すればするほど体温も吐息すらも恥ずかしいものに思えてしまって息苦しい。
でもその苦しさが愛おしい、なんて。
長谷川が聞いたら「ゆかりん、それが恋だよ」とでも言いそうだなぁと思いつつ、今度こそ聞こえ始めた寝息を子守歌に目を閉じる。昨夜は十分に睡眠をとったつもりだが、眠気はすぐにやってきた。青と一緒にいると落ち着くせいだろうか。遠ざかる意識の中で、眠ったはずの青が溜息を吐く。
「……眠れるはずないだろ」
せっかく夢の中に青が出てくるなら、表情を見せてくれたらいいのに。チュ、と頬に色っぽい音が落とされる。夢の中でも青は俺に甘く、優しく髪を梳かしてくれた。
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