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1-8
風紀室には5~6人の人がいた。そのうち二人は先ほどの始業式で青と一緒に袖の方に座っていた人だ。二人はソファに腰掛けている。足を組み座っている方の男は、確か青に役を引き継いだ委員長だったか。いや、もうすでに引き継いだ後だから元風紀委員長と言うべきだろう。
始業式で名前が出ていた。偉そうな方が元委員長の相沢〈アイザワ〉、剣道をやっていそう方は元副委員長の池谷〈イケヤ〉だったか。
「夏目、コイツは?」
「編入生の椎名由です」
相沢の問いに青が答える。
青の言葉に池谷先輩がなるほど、と頷く。
「あぁ、君が……」
噂の、といった風のリアクションに逆に戸惑う。他の風紀委員も軒並みそんな反応だ。編入生だから知っている、という様子ではない。
なんというか……。呆れ顔で青を見ている気がする。何したんだ、青……。
「あっ、そうだ赤! 風紀には族のこと話してるぞ!」
きゃっはーという効果音でも入りそうな顔で青は言う。
……てハァ? 話しちゃったの?
「約束破った訳じゃないからな」
ただ、約束する前にぺろっと言っちゃっただけで。
しれっとそう宣う青。絶対コイツ俺が関係隠そうとするの見越してぺろったよな。お前、そういうやつだもんな! 知ってたさ!!
「……色々と君のことを褒めていたぞ、色々と」
苦笑しつつ池谷が教えてくれる。その色々とが怖いんだが。なんだ、色々って。ほんと、何したんだ、青……。
「椎名が男前だとかいつも飄々としててかっこいいだとか喧嘩が強いだとか言ってたぜ。赤兄貴?」
相沢が意地悪そうに俺に教える。
「なんというか。過大評価ですね」
青らしいと言えば青らしいが。
青に咎めるような視線を投げると、舌をぺろりと出して誤魔化される。いわゆるテヘペロだ。似合っているだけに余計腹立つ。
「過大かどうかは俺たちが決めるさ」
相沢はわざとらしく品定めするような目を向け、ニヤリと笑う。俺が評価通りの男かどうかを試すつもりらしい。青の評価など放っておけばよいものを。
新しいおもちゃを手に入れたと言わんばかりの表情に、内心げんなりする。
とりあえず、品定めの視線に居心地悪そうに身じろぎして見せるほど小心者でもないので、視線を軽く受け流し向かいのソファに腰を掛ける。
まったくもって勧められたりしていないが。どうせ話があって呼び出されたんだ、遅いか早いかの違いだろう。
しかしそう思う奴は稀ならしく、相沢と池谷は面白そうにこちらを見てくる。他の風紀の様子を窺うと、どこか焦ったような表情である。
「委員長怒るんじゃ」
「バッカもう委員長じゃねぇって」
「いや、今はそこどうでもよくね!?」
小声でひそひそと話し合うのが耳に入る。確かに、向こうがこちらを試していると分からなければ俺は人の言葉を無視して勝手にソファでふんぞり返っている阿呆に見えるだろう。
やらかしたかも、と思い青を見る。青は餌待ちの犬のように目を輝かせながら俺を見ていた。なるほど、青がその表情ということは別のベクトルでやらかしてしまっていたようだ。
「期待以上」
クク、と笑う相沢にどっと疲れが押し寄せてくる。
なんというか。
この人に気に入られると、すごくめんどくさいことが起こりそうだ。
もう遅いけど。
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