図書室より愛を込めて

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「よっぽど人気がないらしいね」  僕が呟くと、味尾は「ふむ」と頷きながら手元のカードを見つめた。 「確かにこの作者の文体はいささかナルシシズムに溢れている感があるからね。今時の高校生にしてみれば鼻につくということなんだろう。しかしミステリーにおける構成、演出の筆力には高く評価すべき点があり……」  僕は話し続ける味尾を無視して机の上に設置されたパソコンを操作し、図書室の管理システムに入って貸し出し記録をつけた。 「貸し出しカードがあるのに、デジタルの記録もつけるんだね」  味尾が興味深そうにパソコンの画面を覗いてきた。僕は肩を竦めて答える。 「何年か前にアナログからデジタルに完全移行したそうなんだけど、直後にシステムが壊れて記録が全部消失したらしい。それから一応貸し出しカードの記録も取ってるんだってさ」  利便性を求めて変革を行ったはずなのに、逆に手間が増えている。僕の話を聞いた味尾は愉快そうにニヤニヤ笑った。  パソコン操作を終えた僕は、味尾が持ってきた本を開いてページをパラパラと捲る。本の貸し出しの際には、一応こうやって損傷がないか確認するのだ。 「……ん?何だろう、これ」  その途中、本の真ん中くらいまで来たあたりで僕は手を止めた。メモ帳くらいの大きさの、薄い罫線が引かれた紙が二つ折りで挟まっていた。 「どうしたね」  味尾が尋ねてくるので、僕はその紙を取り出し、味尾にも見えるように広げてみせた。すると、折られた内側の面には、実に簡潔に、以下のような文言が書きつらねてあった。 『先生とは、もう会いません』  女子っぽい、丸みを帯びた文字だった。
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