図書室より愛を込めて

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「書いたのは三年生で左利きの山井塾ユーザーだな。それと、文字の感じを見る限り女子生徒だろうか」  瞬時にそう言い放った味尾を、僕はぎょっとして見上げた。 「何でわかるんだ?」 「筆跡が丸っこくて可愛らしい……と、こんな判断基準で性別を推察しては、ジェンダーバイアスになってしまうね」 「そこじゃなくて」 「はは、わかってる。  この紙、ルーズリーフを丁度良いサイズに切ったものだろう。ハサミの切り口が左利き用のものだ。  それから、この罫線。少し黄色味がかっている。これは山井塾が受験生応援キャンペーンと称して高校三年、または浪人の塾生に無料で配布しているルーズリーフ特有の色だ」  僕は呆気に取られた。もう十年も一緒にいるが、この幼馴染が持っている探偵スキルには未だに驚かされる。  味尾はカウンターのパソコンにちらっと目をやった。「図書室の貸し出し履歴は全てパソコンから見れるのかい?」  何でそんなこと訊かれるのか、と思いつつ僕は「ああ」と頷いた。 「このパソコンと、図書室に置いてある自由使用可の二台からなら、貸し出しの履歴が一覧で見られる。もっとも、管理システムに入るには図書委員しか知らないパスワードが必要だけど」 「そのパスワードは、教員も知っている?」 「図書委員顧問の竹田先生なら知ってると思うけど……ほとんどの先生は知らないんじゃないかな。あ、あと、司書さんもパスワードは把握してるはずだ」 「だったらこのメモを書いたのは、図書委員をやっていた人物か、現役で図書委員をやっている人物か、あるいはそういった生徒と縁の深い人物である可能性が高い」  そこまで聞いた僕が口を挟もうとした瞬間、味尾は「まあ待て、説明してやる」とでも言いたげに手の平を向けて僕を制止してきた。
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