図書室より愛を込めて

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「まず第一に、このメモは手紙と見て間違いないだろう。『先生』なる人物と、『三年生で左利きの山井塾ユーザー』のあいだで交わされていた、ね。では、なぜ直接渡さず、わざわざ図書室の本に挟むなどというまどろっこしい方法を採ったのか?それはおそらく、この二人のやり取りが人目につくと、両人とも大変困った事態に陥る可能性があったからだろうね。例えば、教師と生徒の禁断の恋愛関係が、学校中にバレてしまう、とか」 「教師と生徒の禁断の恋愛関係、の根拠は?」 「この差出人は『先生とは、もう会いません』と書いている。学校空間において先生呼びされるような人物は、そのまま教師しかいない。であれば、この手紙に関わっていたのは教師と生徒、ということだ。人目を忍ぶその関係、恋愛と見るのが一番可能性としては高い」  で、だ。と味尾は続ける。 「手紙を図書室の本に挟むにしても、頻繁に貸し出されるような本に挟んでしまってはすぐ誰かに見つかってしまう。それを避けるために、『先生』か『山井塾ユーザー』が貸し出し履歴を調べて、なるべく人気のない本を選んだんだろうね。  しかし、竹田先生はご高齢だし、今さら生徒との恋愛に身を焦がすとはちょっと考えにくい。うちの高校では司書さんのことを先生呼びする文化はないし、であれば、履歴を調べたのは『山井塾ユーザー』であるとするのが妥当だ。パスワードさえわかればシステムに侵入するのは簡単なようだし、本人が図書委員をやっていたか、図書委員の知り合いからパスワードを聞き出したんだろう」  味尾はそこまで言うと、口の端をにやっと吊り上げて実に楽しそうな表情を浮かべた。 「今日はラッキーだ。なかなか骨の折り甲斐がありそうな暇潰しを掘り出せた。早速、この『山井塾ユーザー』が誰なのか突き止めてみよう。  ああそれと、その本を借りるのはやめておくよ。もしかしたら、この後も手紙のやり取りが続くかもしれないからね。私が借りてしまったら、彼らも困るだろう」
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