図書室より愛を込めて

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 そう言うと味尾は足取りも軽く図書室を出て行った。その背中を見送り、僕はカウンターの上の簡潔文でまとめられた手紙に視線を戻す。  味尾は、この手紙を書いたのは誰か、という部分ばかりが気になっているようだけれど、僕はむしろ手紙の内容のほうに目を引かれた。 (『先生とは、もう会いません』……)  もう会いません、ということは、この差出人は『先生』との別れを決意し、それを自分の意志として相手に伝えたのだろう。  どうしてこの二人の関係は決裂するに至ったのか。僕はそちらのほうが気になった。  それから二週間経った。味尾は調査を続けているらしい。僕はというと手紙のその後が気になって、委員の仕事で図書室に訪れる際は必ず例のミステリー小説を開き、中の手紙を確かめていた。しかし二週間のあいだ、手紙は変わらずそこに挟まっていた。  変化があったのは、最初に手紙を発見してから二週間と二日が経ったときだった。  その日も人気のないミステリー小説を手に取って手紙を確認した僕は、一瞬驚いて「え?」と声を上げそうになった。  挟み込まれた手紙は、ルーズリーフの切れ端から大きめの付箋に変わっていて、そこには前回のように簡潔な返答が綴られていた。 『わかりました』  達筆で、綺麗な文字だった。唯一癖らしい癖と言えば、「ま」の丸める部分が三角形に近い形になっていたことぐらいだ。  とうとう現れた、『先生』からの返事。僕は動揺して、すぐに味尾を呼び出した。
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