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「見たことのない筆跡だね。少なくとも、私のクラスの授業を受け持っている先生ではない」
勉強している三年生の邪魔にならないよう、本棚の陰でコソコソ話す。味尾が僕の顔に目をやった。
「高城はどう?この筆跡に心当たりは?」
「味尾じゃあるまいし、先生の筆跡なんて覚えてないよ……」
味尾がやれやれとでも言うように肩を竦める。
「まあ、手紙の現物さえあればどうとでも調べられる。それから、『山井塾ユーザー』だけどね、一人候補の生徒が浮かび上がったよ」
「えっ、本当に?」
「三年四組の、中谷未来という女子だ。今年はクラス係の英語教科担当だが、去年は図書委員をやっていた。写真もあるよ」
そう言って味尾が自分のスマホを取り出すので、僕は「盗撮してきたのか!」と糾弾する。
「人聞き悪いこと言うんじゃない。ツテのある先輩から入手したんだ」
「それもグレーゾーンなのでは……」
スマホの画面に映し出された中谷先輩は、顔の小さい、美人で真面目そうな人だった。カメラに向かい、笑顔でピースサインを作っている。
しばらく無言でその写真を眺めていると、味尾が静かに口を開いた。
「……それから、少しばかり興味深い話も聞いてね」
そこで言葉を区切ると、更に声を低めて続きを話す。
「中谷未来は、夏休みのあいだに同学年の彼氏ができたらしいんだ。受験生の天王山に彼氏を作るとは全く呑気なことだが……」
僕は衝撃を受けた。手に持っている、『わかりました』の文面が、途端に虚しく重さを失ったように感じた。
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