図書室より愛を込めて

　四限の数学の時間だった。授業の初めに先週やった小テストが返され、その答案を見た僕は先週の自分の迂闊さに頭を抱えた。教卓のほうで、数学担当の植野(うえの)先生が「間違えた人は見直しをしておくように」と言っているのが聞こえる。
　小テストの問題は全部で三問あり、それぞれが一続きになっている。つまり、まず一問目が解けなければ、それがそのあとの解答にモロに影響するということだ。
　そして僕は、本来ならばサービス問題であるはずの一問目で、思いっきり凡ミスしていた。
　答案用紙の隅に、「凡ミスです。気を付けましょう」と植野先生のコメントが書かれていて、いたたまれなくなった僕は答案を折ってファイルにしまおうとした。
「……ん？」
　そのとき、気付いた。植野先生の、「気を付けましょう」の、「ま」。
　丸まった部分の形が、三角形に近い。
　僕は顔を上げて、教卓にいる植野先生を見た。
　綺麗な人だけれど、眼鏡の奥の切れ長の目が冷たい印象を与える女性教師───植野先生を。