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プロローグ
チリリリリン、チリリリリン♪
とある古めかしい洋館の中。
シャンデリアの明かりすらついていない室内で、電話の音だけが響き渡る。
電話は古い洋館の雰囲気にぴったりなダイヤル式のもので、先ほどから澄んだ音を鳴らしている。やがて、洋館の主がようやく、受話器を手に取った。
ガチャ。
「はい。ええ、キャプテン。僕です……はい、無事、引っ越しは完了しました」
月の光を思わせるような、静かな少年の声が部屋に降り立った。
「予定通り、明日、美羽矢高校に配属になります。そのときはまた、よろしくお願いします。……ええ、ええ。……そう。今回は、なかなか困難な任務になりそうですね」
受話器の向こうの相手に返事をしながら、少年は目を窓の外に向けた。宝石のエメラルドのように輝く、不思議な緑の瞳を。
満月の美しい夜だった。
白に近い金色の光は、美羽矢の町を優しく照らし出している。
この洋館は小高い丘の上にあるため、美羽矢町全体をほぼ見渡すことができた。
緑の山々に囲まれ、その反対側が海に面したこの町は、おだやかできれいな所だ。今は眠りに沈んでいるが、朝になれば目を覚まし、すぐに活気づく。
元気と平和の見本のような場所である。だが。
「この町には、『力』が満ち満ちている」
一言、少年はそう言った。
「こんな場所は初めてです。普通の人間の町のはずなのに……ここは、まるで『力のたまり場』だ」
そして、しばらく黙りこむ。
数秒たってから、少年は再び口を開いた。エメラルド色の瞳を細め、ほほ笑みながら、優しげな声でこう宣言したのだ。
「大丈夫。任務は遂行します。『彼の者』を見つけ次第、かならず確保します」
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