一章 エメラルドの瞳

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 声の主はそれほどまでに、きれいな少年だったのだ。  白い肌に、つややかな黒髪。なにより、そのエメラルドの瞳に吸いこまれた。ハーフだろうか?  長いまつ毛でびっしり縁どられた目は、少しタレ気味で眠たそうな印象を与えてくる。おまけに左目に泣きボクロがあるせいで、余計にそう見える。  しかも彼が着ている制服は、翼の通う美羽矢高校のものだ。  少年は大きく、かつ上品にあくびをした。……どうやら本当に眠たかったらしい。緑の瞳に涙をにじませながら小首をかしげる。 「君……」 「は、はいっ」 「膝を、すりむいている」  指摘されて右の膝小僧に視線を落とすと、確かに血が赤くにじんでいた。先ほど転んだときに、すりむいてしまったのだろう。  すると少年は突然しゃがみ、おもむろにハンカチを胸ポケットから取り出すと、翼の膝に手早く、しゅしゅっと結んで止血した。   一瞬呆気に取られた、翼だったがすぐに慌てて、 「あ、せっかくのハンカチが、こんな……」 「気にしないで。僕は血を見るのが苦手だから、ぜひ巻いておいて」  やんわりと制し、相手は翼の制服を改めて見た。 「きちんと手当てをしなくては……君も美羽矢高校の子だね。学校はもうすぐだから、保健室で診てもらった方がいい。立てそう?」  おっとりした物腰で、少年が手を差しのべる。芸術品のような手だ。白くて、傷一つなく、指も長くてとても美しい…… (や、やだ)  少年の手に見とれていたことに気づいて、翼は火がついたように赤面した。人の手をじろじろ見るなんて、はしたない。  だが当の少年は何も気づいていないようで、 「どうしたの、痛む?」 「い、いえっ」  ためらいながら、翼は少年の手につかまる。冷たくて心地いい、手の平だった。  まったく、今日はなんという日なのだろう。
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