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声の主はそれほどまでに、きれいな少年だったのだ。
白い肌に、つややかな黒髪。なにより、そのエメラルドの瞳に吸いこまれた。ハーフだろうか?
長いまつ毛でびっしり縁どられた目は、少しタレ気味で眠たそうな印象を与えてくる。おまけに左目に泣きボクロがあるせいで、余計にそう見える。
しかも彼が着ている制服は、翼の通う美羽矢高校のものだ。
少年は大きく、かつ上品にあくびをした。……どうやら本当に眠たかったらしい。緑の瞳に涙をにじませながら小首をかしげる。
「君……」
「は、はいっ」
「膝を、すりむいている」
指摘されて右の膝小僧に視線を落とすと、確かに血が赤くにじんでいた。先ほど転んだときに、すりむいてしまったのだろう。
すると少年は突然しゃがみ、おもむろにハンカチを胸ポケットから取り出すと、翼の膝に手早く、しゅしゅっと結んで止血した。
一瞬呆気に取られた、翼だったがすぐに慌てて、
「あ、せっかくのハンカチが、こんな……」
「気にしないで。僕は血を見るのが苦手だから、ぜひ巻いておいて」
やんわりと制し、相手は翼の制服を改めて見た。
「きちんと手当てをしなくては……君も美羽矢高校の子だね。学校はもうすぐだから、保健室で診てもらった方がいい。立てそう?」
おっとりした物腰で、少年が手を差しのべる。芸術品のような手だ。白くて、傷一つなく、指も長くてとても美しい……
(や、やだ)
少年の手に見とれていたことに気づいて、翼は火がついたように赤面した。人の手をじろじろ見るなんて、はしたない。
だが当の少年は何も気づいていないようで、
「どうしたの、痛む?」
「い、いえっ」
ためらいながら、翼は少年の手につかまる。冷たくて心地いい、手の平だった。
まったく、今日はなんという日なのだろう。
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