二章 ANTIQUE 狐堂

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二章 ANTIQUE 狐堂

 羽生璃月は、転校初日から強烈なインパクトをクラス内に与えていた。  まずは何と言ってもその容姿。三組の生徒のみならず、他の生徒達まで休み時間に美貌の転校生を見に来る始末だ。  女の子達は、遠巻きに璃月を見てはきゃっきゃと騒いだり、頬を染めて、ささやきあっている。  しかし、彼にわいわいと話しかけてくる生徒は一人もいなかった。遠慮しているとか、そういった理由ではない。  璃月が一日中爆睡していて、誰も話しかけられなかったのである。  だが、その寝顔がまた、あまりにもきれいなのが憎らしい。目を閉じることで、長いまつ毛がより強調されるのだ。  その隙をついて、先生にばれないように、こっそりスマホで彼の寝顔を撮る生徒までいた。そして…… 「ううう……っ」  一番落ち着かないのは、璃月に隣の席に座られてしまった翼だった。  みんなの視線が常にこちらに飛んでくるのが気になって仕方ない。落ち着いて授業も受けられないではないか。 「はああぁ……」  本日何度目か分からないため息をつく翼に。 「翼、ドンマイ」  後ろに座る七海がそう声をかけてくれた。  ところが。今日の帰りの会が終わった途端、あれほどまでに目立っていた璃月は忽然と姿を消していたのである。  それこそ誰にも気づかれないうちに、だ。 「あり? 羽生君はもう帰ったのかな?」  実際、七海がそう言うまで、翼も璃月がいないことに気づかなかったほどだ。 「すっごいねー、あの野次馬に気づかれずに帰るなんて。ありゃ、よほどの手練と見た。もしかして忍者だったりして……あ。あの容姿は忍者というより、マジシャンか」  魔術師(マジシャン)。  七海の冗談を、翼は笑えなかった。  璃月が次々と起こす摩訶不思議な出来事。そこにタネはあるのか、ないのか。そして、もし後者だったとしたら……?
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