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引っ越し
「よっ…し、今日はこれで」
終っわりいいっ!
最後のダンボールにガムテで封をした私は、ペタンと床におしりをついた。
首に下げたタオルで、額の汗を拭き取る。
フワッ。
開け放った窓から、初夏の爽やかな風が吹き込んで、薄水色のカーテンを揺らした。
とある平日。
私は、自分のワンルームで、引っ越し作業に精を出していた。
帯刀さんは、『手伝う』と言ってくれていたんだが…
私はそれを丁重にお断りし、彼が会社に出ている間、一人帰ってきては、ちょこちょこ作業をやっている。
家具類は全て新居に揃ってるから、持っていくのは、元々少ない私の私物だけ。
ヲタク気質な私には、何かと男性に見られたくない私物もたくさんある訳でして…
(荷ほどきの時には要注意だ。でも、棄てることはできないの!)
すっかりガランとしてしまった私のワンルームは、ソヨソヨと風が吹き込む度に埃の塊が流れていく。
あとは後日、少しの掃除をして、大屋さんに見てもらうだけだ。
上京して3年間、ずっとお世話になった部屋だから、出ていく時はやはり少し寂しい。
「楽しかったな…」
ありがとう。
独りごち、誰にともなく頭を下げる。
少しの間感傷に耽り、それから私はスックと立ち上がった。
今日はこれから隣人に挨拶して、荷物を帯刀さんとこに運び(ホームセンターで軽トラを借りてきたの)、向こうで荷ほどきもしなくちゃならない。
仕事を辞めても、結婚までにやることは目白押し。却って今は忙しいのだ。
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