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ザァァァァ・・・・ ザァァァァ・・・・
波の打ち寄せる音が間近に聞こえる。
身体に絡みつく潮風。
潮の香りが、ほのかに鼻孔をつつむ。
辺りに人影はなかったが、波打ち際を見ていると視界の端でヤドカリが歩いていた。
星めく夜。
暗い海の上に輝く星々の中、月がかさを作っていた。
満月の優しい月明かりの下、じっと目を凝らしてシーグラスを探す。
波が長い年月をかけてガラス片の角を削りとり、丸いまま海辺に転がる宝石たち。
彼女は少し離れたところにいた。
交際前から随分とどぎつい性格をしていた彼女が、この先二人で過ごす長い時間の中で、少しずつ性格が丸くなるようにという皮肉を込めて・・・ と少しだけど本音が漏れたら、きっといつものようにキレるだろうな。
いくつか不揃いな大きさのシーグラスを見つけて手に取り、色の組み合わせを考えて拾っては捨てて・・・
うん、こんなもんだ。
ちょうどよく色が用意できた。
小型の工具でシーグラスに穴をあけて、ブレスレットの紐2つそれぞれを通し、調整をしていく。
少しして即席のシーグラスのブレスレットが出来た。
彼女は海辺の離れた場所に一つ一つキャンドルをセットしてライターで火をつけ、光の道をつくっていた。
俺が先ほど作ったシーグラスのブレスレットの片方を見せる。
「ほい、これ。本日のサプライズ。」
「えー!、何これ。すごーい!いいじゃん、いいじゃん。」
ドヤ顔をしつつ、「つけてみ、つけてみ。」と装着するよう促す。
「わー。きれーーー。」
彼女が、腕につけたブレスレットを角度を変えながら見つめる度に緑や青のシーグラスに月明かりが反射して輝いた。
「へーー。」
「じゃーん。ペアだよ。」
自分もさきほど作成したブレスレットを腕につけて見せてみた。
「ペアなんかい!なんでペアなん?(笑)」
「結婚式前の記念で即興で作ってみた。つか工具はもってきてたけど。」
「ふーん。」
彼女がにやにや笑いながら言った。
「じゃあ、次はリングがいいな。」
「マジ!?ちょっと手間かかるよ。てか結婚の指輪あんじゃん。いくつもいらんだろ。」
俺はそういって苦笑いして見せた。
「いーじゃん。」
「わかったわかった。ちゃんと作ってやるって。一品ものをな。」
「2つペアだからね。」
「はいはい。」
無邪気に笑う彼女のおねだりには勝てない。
交際からいろいろしんどいときや別れたいと思ったこともあった。けど、今もなんやかんやで続いている。そしてこの娘とならこの先も一緒に同じ方向を向いてずっと歩幅を合わせたり、時には立ち止まって相手を気遣い、身体を支えあったりしながらでも歩いていける。
そう思ったからプロポーズをしたのだ。
改めて、『彼女は一生俺が守る。』という思いを誓いに変えて二人で手をつなぎながら海辺を歩いた。結婚式の予行演習のためセッティングしたキャンドルライトに向かう最中、満月と数多の星々の光に照らされた二つのシーグラスのブレスレットは俺たち二人を祝福するように揺れながら輝いていた。
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