さくらん

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「本当に、気持ちが悪い世の中になった」 老人は布団に横たわり嘆いていた。 昨年全世界に一つのニュースが広まった。 花を永久的に咲かせる方法という論文が、ある青年によって書かれたのだ。 その技術はすぐ世間に受け入れられ、実際にあらゆる花に使われた。 今や桜は夏も秋も冬も、桜色のままだ。 老人はそれを否定した、すると近所の人々から頑固オヤジと呼ばれるのだ。 「いずれ風物詩からも植物は姿を消すのだろうな」 そうつぶやいて、老人は庭にある桜と梅の木を見た。 まだ青い若葉をみずみずしく生やしている、だが老人が死に、他の誰かの手に渡った時に、あの樹々たちは花を咲かせ続けるという終わりのない苦しみを強いられるのだ。 「だが私は幸せなのかもしれん、この人生を美しいまま終わらせることができるのだ」 つい昨日のことだった。 病床にいる老人にも伝わっていた。 青年の書いた新しい論文が発表されたのだ。 「あのランは何をしても枯れなかったのだ...いや、戯言か」 そうして老人は終わりのある眠りについた。
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