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「本当に、気持ちが悪いランだな」
鉢植えの前に立ち老人はそうつぶやく。
この鉢植えは5年前に怪しい露天商から興味で買ったものだった。
初めは老人も丹念に育てていた。
妻に先立たれ、子もなく、日がな縁側で過ごしていた老人にとって、ランは新たな生きがいとなった。
そうして、やっと花を付けた時は飛び上がるほど喜び、友人を呼んでは、ランのことについて話した。
しかし今はそんなことはない。
老人は以前孫のように構っていたランに見向きもしない。その理由は......
「物事には限度がある、2年も咲き続けるとは」
ランが散らないというものだった。
「桜も、梅も、花というものは、散るからこそ美しいのだ。それを朝昼晩、春夏秋冬咲かれては風情などあったものではない」
以前1年咲き続けた時、気持ち悪さに老人は花を切り落としたことがあった、だが5ヶ月もすればまた花をつけた。
それならば本体ごと枯らしてしまえと1年水をやらなかった、しかしランは枯れることなく見てと言うように花を咲かせ続けた。
これならどうかと鉢植えから引っこ抜き、岩の上に放り投げた、けれどランはそこでも花を咲かせ続けた。
半ばヤケに庭に落ち葉を集め、火をつけ、ランを放り込んだ、やはりその後5か月もすれば炭の中から生えてきた。
ランは何をされようとも咲き続けた。
「もう私には、どうしようもない」
だがこのランと共に老いることもできそうになかった。
老人は悪い腰に鞭を打ち、よっこらせと鉢植えを門外に出すと“もらってください”という書き置きを残し家へと帰って行った。
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