夏月の1週間

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 そんなこんなで社員食堂。  メニューは3種類。麺と定食とカレー。  値段は均一の500円。味はまあまあとの事。俺食べた事ないけど。  ここに決まってからずっと弁当だし。  そっちのが安いし、楽しいし。  席は別に決まってるわけじゃないけど、緊急の電話がきた時のために、俺は出口に1番近い席。ここだと後ろ振り向いたらドア2枚挟んだ向こうに俺の席。ナイスな場所だろ。  ここ見つけた時小躍りしたわ。・・・してないけど。  8人がけのテーブルで、今日も女子・・・一体何歳まで女子なのかっていう疑問は、口に出した瞬間に抹殺されるので気をつけましょう。・・・に囲まれてランチ。  前は男性社員に虐められたよ。女に囲まれて云々。もう聞きあきたし、さすがに言い飽きたんだろう。最近は言われないな。クソガキ以外。  騒がしくなったな、と振り向くと 工場勤務の方たちと現れたのはクソガキ長瀬。同期なんだけど長瀬は工場の方で何かと戦ってる。今は豚肉かな。  外食チェーンを幾つも経営する本社直営の精肉工場。機械化が進んでるとはいえ、やっぱり人の手は大事で。  ここには、冷凍されたりされてなかったりの生き物本体から小分けにする部署と、小分けされたのを細分化する部署があって。  小分けにする部署は本体がデカいから男性が多く、細分化する部署は細かい作業が得意な女性が多い。  事務室は外部との連絡が多く、朝イチから来るトラックからの荷受や、細分化された肉を調理専門工場へ送り出したり。トラックの運ちゃんや配送係とやり合うこともあるため、人当たりが良く声色の優しい女性が多い。また、俺や部長のように男も時には必要で。  それは誰かが失敗した時で、外部に向かって頭を下げるのは女より男の方がいいらしい。俺はまだ下げた事ないけど。・・・差別だと思う。  なんて考えながら弁当オープン。 「相変わらず文句の付けようのない弁当持ってくるわね」という黒川さんも弁当派。黒川さんこそ、毎度カンペキな弁当ですね。彩りとか詰め方とか。今度教えてほしい。  隣に座ってる清水さんは旦那さんが外食派だそうで、いつも食堂ランチ。今日は「そういえば昨日、ウチカレーだったわ」とか言いつつカレーを食べる。謎。 「ちょっと、やめなさいよ」  そう言う黒川さんの声に我に返ると、長瀬が俺の弁当を持ち上げ「きっもちわる」といデカい声を出していた。 「男のくせに弁当とかなくね?てか、まさかの彼女だったりして」  「なぁ」なんて言いながら後ろを振り向いた時、そこには社長がいて。  ぶつかった拍子に俺の弁当が社長と床に散らばる。こっそり「長瀬ざまぁ」って言ってるの、聞こえてますよ?清水さん。  長瀬は一気に顔を青くして「申し訳ありません」と頭を下げる。・・・が、お前は俺にも謝れ。弁当台無しにしやがって。  溜息をつき、社長に謝り弁当を拾う。  今回の大根、美味しかったんだよなー。楽しみにしてたのに。ベーコン巻きも好きなのに。あ〜あ。  悲しいかな、今日は昼抜きだ。  長瀬は社長に謝ったあと、こっちの片付けも手伝わないで食堂から逃げた。あのやろう。
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