夏月の1週間

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 妻が夫に作る弁当には「お仕事頑張って」と「身体大事に」が詰まってる。  母が子どもに作る弁当には「学校サボるな」と「何事もなく無事帰宅」が詰まってる。  彼女が彼氏に作る弁当には「可愛らしさ」と「彩り」が詰まってる。  一人暮らしの女性が自分のために作る弁当には「私料理出来ます」と「ヘルシー」が詰まってる。  他の男は知らないけど、俺が俺のために作る弁当には「節約」と「万年金欠」が詰まってる。  料理が趣味でこだわりキッチンと調理器具のおかげで、家賃は高いし部屋も無駄に多い。  なぜキッチンにこだわった1人世帯のための部屋がないのか。  一人暮らしには大きすぎる冷蔵庫に向かって「寂しい」と呟いたって、誰も聞いてないし虚しいだけだ。  日々の生活がサイクルとしてクルクル回る俺は料理以外に趣味がなく、その趣味ですら自分のためだけのもの。  友人も恋人もそして家族もいない俺は、毎日自分のためだけに料理を作り、弁当を作る。誰かと共有したい時間はあっても、誰か がいない。  そして俺が欲しい『誰か』は1人だけ。  寂しいと言っても聞いてくれる人がいない。
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