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(いや、でも…まさか…)
あり得ない。
…その言葉は両親の離婚が決まる以前から、幾度も心の中で繰り返してきた言葉だった。
――…期待はずれになったら淋しさだけが心に残るから、抱いた淡い期待など真剣に取り合わないようにしてきた。
だけど、言葉を交わし微笑み合うたび。
同じ景色を見て、同じ感想が口から零れるたびに。
まさか航基もおれを…? と想像するたびに、この予感が違っていたら恥ずかしい思いをするのは自分だけだと考えては、深く追求しなかった気持ち、だったのに――…
「嘘だろ」
それでも今、期待が溢れ返る胸に押し出された言葉が和馬の唇から零れ落ちると、陰りのないその顔を朱に染めた航基が上目遣いで和馬を見上げ、口を開いた。
「うそ、なんかじゃない。…オレ、も…」
和馬が綴ってくれたラブレターと同じ言葉を口にできずに、更に赤くなって顔を俯けた航基の紅く染まった耳たぶの色で、航基の真心に触れた気がした和馬の顔に、ようやく安堵の笑みが浮かぶ。
――…言葉なんか、いらない。
(言われなくても…分かる)
君が好き。
そう言葉にされなくても、その態度で気持ちを伝えてくれた航基のつむじを見た和馬はゆっくりとした足取りで近づくと、固く握られた航基の手を、両手でそっと包み込んだ。
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