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―――…と、こんな風に事は何もなかったように過ぎるはず…だったの、だが。
「なん、で…?」
よりにもよって、と言うべきだろうか。
思いもかけず気づいてしまったラブレターの件は、ともすれば
『和馬とオレの、二人だけの秘密』
として、片づくはずだったのが。
明くる日の、朝。
教室内で一つの『事件』へと発展していた。
(…オレが悪いのか?)
昨日確かに、机の中にしまったはずのノートが…登校してみたら、どういう訳か教室の黒板に貼り出されていたのだ。
「なぁ」
同じクラス、同じ寮生で一緒に登校した和馬を不安げな目で見上げた航基は、昨日確かにしまったことをその眼差しで確認する。
「…誰かが故意にしたとしか、考えられないだろうな」
日の光を跳ね返しそうなほど艶やかな黒髪を梳きながらそう言った和馬は、不安な気持ちを写して揺れている眼差しの前で、安心させるように笑んだ。
「大丈夫。中村に後ろめたいことが何もなければ、恐れることなんて何もないだろ?」
「──…ん」
想いを寄せている人の何気ない一言が、こんなに胸へ刺さるものなんて――知らなかった。
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