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「いてて」
「大丈夫か?」
「おい、中村ぁ!」
(!)
恋の病で痛む胸を撫でる航基を慮る言葉に応える間もなく、クラスメートたちが入り口に佇んでいた二人の元へどっと雪崩れ込む。
好奇の目を向ける連中の口から出るのはあのラブレターに関するものばかりで、どれも取るに足らない言葉ながらも、渦中の人となってしまった航基からすれば、どう答えるのが最良なのか分からない問いかけばかりだった。
(どうしよう)
下手をしたら自らの手で藪をつつき、蛇を出してしまうかもしれない。
それは駄目だ。
絶対駄目だ。
やぶ蛇で自分は同性を好きになってしまったんだと告るのならば、こんな大勢の前ではなく、せめてその好きな人の前だけでしたい――と、隣で巻き添えを食らっている和馬の横顔を見ると、
「誹謗中傷する気がないって言うんなら」
と、この騒ぎの中でも凛と通る声がざわめきの間を割って走り、誰しもの口を噤ませ、そして注視を引いた。
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