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月下美人
『貴方は、闇夜に浮かぶ月ですか?
それならば、たったの一夜だけでも永く私を咲かせて。私と貴方の甘美な薫りに酔いしれたいの。
……「愛してる」
この一言だけ言うのは、簡単。
貴方はいつも、私を抱きながらそう囁くけれど、私の心には響いていない。
何にも、感じない。
だって、貴方は私を心から愛していないから。
私も、貴方を心から愛していないから。
そう、ただ身体を重ねているだけ。
身体だけの関係だから、壊れやすいの。
……この関係に終止符を打とうとした。
だけど、目を覚ましても、他の男を見ても、瞼を閉じても、貴方のその姿が焼き付いて離れない。
どうすることも、できない。
貴方と関係を持ったのは、二年前のあの日。
あの日は、当時付き合っていた彼氏に『実は結構前から好きな子がいて、その子と良く会ってて、それで……その子が妊娠してさ、だから結婚することにしたんだ』と、何の詫びもなく、悪びれることもなく、そう別れを告げられた日の次の週末の夜だった……』
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