はじまりは糸が絡まったように。

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「編集長、今から行きますんで安心して下さい。必ず、落とさせませんよ」 そう言って、私は担当作家の校正中の原稿をとりあえず途中で切り上げて、他の作家の家に向かうべくオフィスを出た。 編集者の仕事は忙しい。 大量のデスクワークに担当作家との交渉、それからまだ沢山あるけれど、作家から原稿を受け取るのは一番の仕事。 私は今、数人の作家の担当をしている。 その内の一人の家に行く前は必ず、あるものを持って行った。 その作家の家の近くで電車を降りて、近くの和菓子屋で大納言小豆最中を買ってから家に向かう。 もう何度目になるのか分からないくらい通った道を歩いていき、純和風建築のその家の門扉の前に着く。 ……良し、先生の好きな大納言小豆最中も買ったし、これで大丈夫かな。 甘いものがとにかく大好きな先生で、こうして締め切り直前まで煮詰まっている時は把握してある大好物を持っていって英気を養ってもらっていた。
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