はじまりは糸が絡まったように。

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先生こと、『西園寺 修(さいおんじ おさむ)』先生は本名をそのままペンネームにしている官能小説家だった。 繊細な言葉で表現される淫靡な情景描写が上手く、官能小説の世界では『官能の権威者』と評されていた。 若い頃からいくつか大きな賞を取っていて大物作家であるけれど、そういうのを鼻にかけないとても気さくな面白い先生だった。 だけど、いつも締め切り間近になると先生曰く『期間的な軽い鬱』を発症し、後少しというところでペンが止まってしまう。 深く眉根を寄せて腕組みをする先生は、唸るような声を出した。 「うーん……。後少しなんだけどさあ、でもさあ、さっちゃんが前号で大袈裟な告知打っちゃったからさ、どこまで書いていいのか分からないんだよね。あんまり書き過ぎても話の本筋が分かって先の展開読めちゃうし、かといって書かなさ過ぎても『何言いたいんだこいつ』って思われそうだし……」 先生の言う『さっちゃん』は私の愛称だった。 『沙都美』だから、ベタだけどさっちゃん。
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