はじまりは糸が絡まったように。

8/75
前へ
/1010ページ
次へ
「もちろん、いいですよ。これからも買ってくるつもりですから安心して下さい。先生が書いて下さるのなら何でもしますよ。ですから私のおかげと言って頂けて、遠慮なく甘いもので原稿の催促が出来ると、やる気が出てきました。さあ、先生。どこまで進みましたか?」 にこりと笑いながら優しく言うと、先生の表情が何か恐ろしいものを見るかのような表情になった。 「お、鬼……」 ぽつりと呟かれた言葉が耳に入り、私は眉をピクリと動かす。 「先生?今、何かおっしゃいましたか?」 「い、いえ。何もございません。あ、こちらが今回の原稿でございます。高原沙都美様、何卒、校正のほど宜しくお願い致します」 デジタル化にならい原稿はパソコンで打ってデータを渡す作家が多いけれど、西園寺先生はいつも原稿用紙に書いて私に直接手渡しをしていた。
/1010ページ

最初のコメントを投稿しよう!

860人が本棚に入れています
本棚に追加