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ラブレター添削サイト
「依頼者様
この度は、ラブレター添削サイトをご利用頂きありがとうございます。依頼者様の綴った想いが愛へと実ることを心からお祈りしております。さて、早速ながら依頼者様のラブレター、拝読させて頂きました。失礼ながら申し上げますと、依頼者様がなぜ、お相手様のことを好きになられたのか。その気持ちがまるで伝わってきませんでした。その理由が赤の他人が読んでいるからだ、直接接したことのあるお相手様なら伝わるはずだ。と思いあがっているならば、まずはその酷く滑稽な自尊心からお捨てになられてはいかがでしょうかーー」
俺は無機質に並べられたゴシック体をここまで読み、怒りと恥ずかしさでわなわなと震えていた。なぜ、ここまで見ず知らずの相手にけなされなければいけないのか。こっちは藁にも縋る気持ちで相談しているのに。
「ラブレターの添削をしてくれるサイトがある」
そう言ってこのサイトの存在を俺に教えた穂香にも八つ当たりしてしまいそうだ。だけどこのサイトの管理人だって見ず知らずの俺のラブレターを添削してくれているんだ。ふっと息を吐き、肩の力を抜く。よし、続きを読もう。俺は恐る恐る文字を追う。
「百歩譲ってお相手様と依頼者様がお互いがお互いのことをよく知る間柄であったとしましても、自分のどこを依頼者様は好きなのか、いいと思っていてくれていたのか。それを知れるということは、お相手様からしましても、さぞかし嬉しいことだと思います。何より、なぜ依頼者様がお相手様のことを好きなのか、想い返してみてください。お相手様のをことを想う気持ちは更に募るのではないのでしょうかーー」
なんで俺があいつのことを好きになったのか。その答えを俺は知っている。だけど面と向かって伝えるのは恥ずかしいと思っていた。
「ーー面と向かって伝えるのは恥ずかしい。そう依頼者様は思っておられることでしょうーー」
「え!?」
俺は思わず大きな声をあげてしまっていた。顔も知らないパソコンのモニター越しの人物になぜ心を見透かされてしまっているのか。
「依頼者様から拝受したお手紙からその実直なお人柄は伝わってきました。このように面と向かって伝えるのは難しい想いも、手紙だからこそ伝えられるのです。是非、依頼者様の想いをしたため、私に読ませて頂ければ幸いでございますーー」
こんな顔も名前も知らない、文字だけで人の気持ちを読むことなんて出来るのか? まゆつば物ではあったが、最初に抱いた嫌悪感は不思議と消えていた。
「See you letter. また読める日まで」
最後のつまらない一文を読むまでは。俺は再度息を吐いた。腕を伸ばし、指の骨を鳴らし、気持ちを整えた。俺はたどたどしく、手紙を綴る。
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