「渡辺家」

11/12
77人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ
 男はしゃべりながらじりじりと詰め寄ってくる。腰が上がらない。あまりの衝撃と恐怖で体が竦んでしまっている。  男はいきなりは襲ってこない。私の全身を舐め回すように観察している。 「やっぱり、人形より、人間の女がいいなあ」  そう言った男の息が「はあはあ」と、荒くなっている。  人形・・ということは、この男は人形の愛好家なのだろうか、  男はそう言った後、 「それも、同じ人間でも幼子より、物分かりの良い年頃の女の子が一番だなあ」と続けた。  ああ、悪い予感が全て当たってしまった。  人形よりも人間、幼女よりも年頃の女の子。その幼女というのは由香ちゃんのことだ。 「私、帰ります!」  ようやく拒否の言葉が出た。渡辺くんが戻ってくるのを待ってなんかいられない。一秒たりともこの部屋に居たくなかった。  けれど私の行動は封じられた。男が私を押さえつけるように、両肩に両腕を置いたのだ。圧倒的な力だ。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!