「渡辺家」

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「渡辺家」

◆渡辺家  渡辺くんとは、近くの公園で待ち合わせをした。家は公園の近くらしい。  彼は公園のベンチに座っていて「やあ」と手を上げた。  私は笑顔で返したが、この公園には悲しい思い出がある。  中学の時、私は犬を飼っていた。この公園も犬の散歩のコースだった。  可愛い柴犬だったけれど、少し目を離した隙に公園にあった何かを口にしたらしく、苦しみだした。すぐに吐き出したけれど、苦しみは治まらず、父が獣医に連れて行ってくれたが、その日の夜に亡くなった。  お医者さんは、犬は毒物を食べたらしいと説明した。誰かが犬が口にしそうな物の中にその毒を仕込んでいたということだ。  警察に届けたけれど、犯人は分らずじまいだった。  そんな出来事を思い出したので、私は公園の中に入るのを躊躇っていた。すると、渡辺くんは公園から出てきて、 「僕の家、すぐそこだから」  彼はぎこちない笑顔でそう言って、先を歩き出した。  しばらく歩くと「ほら、あの家だよ」と戸建ての家を指した。
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