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「ご家族、誰かいるの?」私は訊ねた。
まさか、二人きりということはないと思うけれど、念の為に訊いた。
私の問いかけに、渡辺くんは、「ああ」と小さく言って、
「気に入ってくれるといいけど」と不安気な口調で言った。
そう言うからには、家族がいるのだろう。
彼は玄関に立つとポケットから鍵を取り出し、ドアを開けた。
「入って」渡辺くんはそう促した。
私は「お邪魔しま~す」と誰ともなく言って、中に入った。渡辺くんは、私が靴を脱いでいる間にはドア側に移動し鍵を回し、チェーンをかけた。
すごく当たり前の動作なのに何故か違和感が拭えなかった。
それに家の中が暗い。誰かいるようには思えない。
「家の方は?」私は小さく訊ねた。
すると渡辺くんは、廊下の灯りを点けて、「後で挨拶に来ると思うよ。今は部屋の中にいるんだ」と言った。
その言葉も何かおかしい。普通は家族の誰かが出てくるのではないだろうか。
けれど、家にはそれぞれの習慣があるのだろう。あまり気にせずに渡辺くんに付いていくことにした。
「僕の部屋はこっちだよ」
渡辺くんは二階に上がる階段を指した。その先も薄暗い。
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