「渡辺家」

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 部屋の中にポツンと取り残されたような私は部屋の様子を眺めるだけしかなかった。それもすぐに飽きた。数分もすれば戻ってくるだろう渡辺くんを待つしかない私は、こう思っていた。  ああ、私はどうして渡辺くんの家にいるのだろうか。  そして、どうして彼とつき合うようになったのか。  通学路を歩いていた時に落としたハンカチを彼が拾ってくれたことがきっかけだけど、果たして本当にそうだろうか。  通学路で出会ったと言っても、その時が彼に会ったのが初めだった。    そんなことを考えながら、渡辺くんが戻ってくるのが遅いな、と思った。  同時に、部屋の外・・どこかの部屋のドアが開く音が聞こえた。  母親が出て来たのだろうか? 廊下を歩く足音が聞こえた。こっちに向かってくる。  予想通り、足音は部屋の前で止まった。ドアノブが回った。  私は背筋を正して、彼の母親を迎える準備をした。 「お邪魔してます」  その声が出かかった瞬間、強烈な違和感が襲った。  それは匂いだ。
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