「少女人形」

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「少女人形」

◆少女人形  川沿いの土手を散歩していると、向こう側から、乳母車を押した老人がやってきた。  孫を連れて散歩でもしているのだろう。そう思った。  心温まる風景だ。親が子を連れているよりも、微笑ましい。俺もいつかはあんな老人になるのだろう。そして、あの老人と同じようなことをする。そんな想像を膨らませると、夕暮れの散歩も楽しくなる。  だが、様子が違ったようだ。  それは、老人に近づいてみて分かった。  乳母車に載せてあるのは、孫などではなく、どうも三歳児くらいの少女を模った人形のようだ。どう見えても、少女の顔には生気がなく、色つや、その全てが何かの材料で創った人形だとわかる。  顔以外は、可愛らしい幼女服に包まれているので見えないが、顔だけでも十分にわかる。  それを見てしまうと、さっきまで穏やかな風景として認識していたものが、180度変わってしまう。  この老人は、変質者だ。  いや、そう言い切ってしまうのは、老人に申し訳ない。  これは、俺の想像だが、老人は、何かの事故か病気で孫を亡くした。そのことが受け入れられずに、こうして同じ年頃の少女人形を買い、楽しんでいる。  そう仮定すると、変質者だと思っていた老人が、哀れに思える。  人間の評価と言うものは、そうやってコロコロ変わるものだ。
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