「ガラスの中の少女」

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「ガラスの中の少女」

◆ガラスの中の少女  その少女は、いつもガラスの向こうにいた。 「山村、また、店の中を覗いているのかよ」  学校帰り、友人の梶田が、うっとうしそうな顔で言った。 「夢に出てくる女の子に似ているんだ」  僕は、学校帰り、そのショーウィンドウの前に来ると、思わず歩を緩めたり、立ち止まったりして、その少女に魅入っていた。 「よほど、好きなんだな」  そんな僕を見て、梶田はいつもそう言ってからかう。 「命のない女の子をいつまで見ていたってしょうがないだろ。見るのなら、学校に一杯、可愛い女の子がいるじゃないか」  梶田の言う通り、僕が見ているのは、命のない女の子。  少女を模った人形だ。彼女はいつもガラスの向こうにいる。  小さな骨董品店だ。アンチックな商品に混ざって、その少女はこちらを見ている。  ゴシック調の白いドレス。西洋風だが、黒い髪に、黒い瞳。日本人の少女が西洋の服装に身を包んでいるように見える。そんなアンバランスな感じが、最初、僕の目を惹いた理由なのかもしれない。  そんな人形をもっとよく見たくても、ウインドウから離れた位置に置かれているので、見づらい。奥まった壁際に置かれているのだ。更に店内が暗いせいで見にくい。  もっと近くで見たい。いつもそう思ってウインドウの中を覗き込んでいる。 
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