機械の星

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「では行ってらっしゃいませ」 無機質な声がピンと背筋を伸ばした人の背に響く。 人は動く床に乗り、どこかへと運ばれてゆく。 ここは文明が人を追い越した星、人が便利になるようにと作りだした機械は、人の見えぬところで発展を遂げ、やがて人に代わる支配者となった。 人は思考することを機械に制限され、機械の思うように動かされ、ただ機械の様子を見るだけの存在となり果てた。 ある日その星に銀色の円盤状の船が降り立った。 しばらくして星の大気に危険がないと分かったのか船員たちが下りてきた。 「これはまた、文明が進んでいますね、私たちの星と同じくらいでしょうか」 「そうだな、これだけ文明が進んでいるなら、交易もできるやもしれん」 そう話す船員たちを、星の人々は円く取り囲み、そこから高齢の男がひとり進み出た。 「ようこそお越しくださいました。さあさあ、本日は宴としましょう、精一杯のおもてなしをいたします」 そう言って船員たちを人々は歓迎し、金属で出来たテントのようなところへと案内した。 そこには船員たちの母星によく似たいい匂いのする料理が並んでいた。 船員たちは料理を調べ、有毒なものが入っていないことを知ると食べ始めた。皆その美味に舌鼓を打った。 船長は改めて老人に向き直った。 「着いたばかりというのに、これほどの接待をいただけるとは、ありがとうございます」 「いえいえ、私たちにとって客人とは何をおいても尊ぶべきものなのです。さあそんなことより、あなた方のことについて教えてください」 この星の人は好奇心旺盛だった、船員たちは感心し、楽しい宴の最中自分たちの持つ情報や技術を話して聞かせた。 「なるほど、素晴らしい知識と技術をお持ちだ、では」 一通り船員たちの話を聞き終わると、星の人々は老人の一言をきっかけに笑みを浮かべていた顔から一転し、歯をむき出し、しわくちゃな顔で奇声を上げながら、船員たちに襲い掛かった。 不意を突かれた船員たちは抵抗することもできず、逃げ出した。 やっとのことで船に帰り着き、星から慌てて発進する。 宇宙船の中で船員たちは無事を確認し合って、息をつく。 「いや、なんという種族でしょうか、柔和な顔に、恐ろしい狂気を秘めている」 「このような種族がここまでの文明を持っているのは、宇宙にとって脅威だ。どうだろう、奴らを滅ぼしては。幸い奴らはわれらに似た体構造のようだ。われらが持つ、人体だけを溶かすこのガスが効きそうだ」 船員たちは皆口々に賛成をした。 そうして船からガスはまかれ、人はたちまち溶けて消えた。 だがその星から人が滅びることはない。 人を機械が作っているからだ。 人は機械にとって、他の星からもたらされる、情報と脅威の受け皿なのだ。 ガスが効果をなくすころ、また人は増えるだろう。 船員たちは母星に向けて帰路につく。 「文明は破壊しなくてよろしいのでしょうか」 「なに、機械は人なしでは動かんよ。そのための、機械なのだから」
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