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歪みが生じても、それに左右されること無く、追いかけていく。
そうすることで私はようやく、先輩と並んで歩くことができる。
先輩の行動を見ながら、何故だか、模索していた正解が分かった気がした。
麗奈も、今まで先輩に捨てられた女の子達も、みんな先輩に恋心を抱き、そういう素振りを見せてしまったから先輩の隣にいられなくなってしまった。
知的で博学で、そのくせ遊び人の先輩は、今まで私に色々なことを教えてくれた。そ
の中には勿論、楽しいと感じられることも多々あった。
私にとって先輩は、楽しさを提供してくれる先生だ。
そんな先輩の隣にずっといる為に、私は冷静で冷たい女を装っている。
ちらり、と隣に視線を向けると、相変わらず何を考えているのか分からないような顔が目に映る。
先輩はそんな私の意図を察しているのか、否かは分からない。
けれどそんな不透明さのある関係が、妙に楽しい。
例えキスやハグに、魅力を感じなくたって。
小夜ちゃん、と先輩が隣から声をかけてくる。
「手、繋がない?」
その言葉と共に、差し出される右手。
うん、と返事をして、私はそれに躊躇なく自分の左手を絡める。
「なんか、パパと手を繋いでいるみたい」
「え、それは悲しい」
「ごめん。でも、だって、そうなんだもん」
私の反応に少しぼやきながらも、微笑む先輩。そんな先輩を、ただぼんやりと見つめる私。何の変化のない左手。
視界の左端に、目指す駅のホームが小さく入り込む。
「あー、残念。もうそろそろだね」
私の視線の先に気付いた先輩が、わざとらしく肩を落とす。
そんな先輩の黒い髪に小さく映える薄桃色を見て、また春が来て桜が見頃を迎えた頃、先輩が一瞬でも、様々な思い出の中から今日の私とのことを思い出してくれたらいい、と何故か柄にもない願いを抱いた。
「多数派」になれない私をなんとか生かしてくれているのは、先輩なのかもしれない。都合のいい勝手な解釈をして、髪にそっと伸びてくる左手を、頭を右に傾け、笑いながら振り払った。
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