霞んだ春を

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 「小夜ちゃん、会いたい」 もう三ヶ月も会っていない先輩からメールが来たのは、三日前。 突然のメールに、どうしたの、と事情を尋ねると、 「もう桜が満開でしょ?桜の見頃は、平均で六、七日程度なんだって。だから散っちゃう前に、小夜ちゃんと一緒に、お菓子を食べながら桜を見たくなって」 調子のいい軽い言葉が返ってきたが、その軽さがいかにも先輩らしくて、どうも憎めない。むしろ、何故だか少し微笑ましかった。  桜の見頃ってそんなに短いんだ、と一人頷きながら、どうしようかな、とわざと躊躇して見せる。 そんな私に、 「かわいい小夜ちゃんに、会いたいんだよ」 先輩がまた、軽い言葉でもう一押ししてくる。 その言葉が半分嘘だということは経験上、分かっていたが、少し考えた後、 「ありがとう。私も、先輩に会いたい」 私はそうやって、先輩に調子を合わせた。  私と先輩は、高校時代の部活で一緒になった。 初めは話すことさえ少ないような仲だったが、その関係はあることを機に、変化する。 それは私が、同学年の麗奈と友達になったことだった。  先輩が掛け持ちで所属しているもう一つの部活に、麗奈はいた。 麗奈と先輩は仲良しで、付き合っているという噂も流れていた。 そんな麗奈と私が二人で、校門前で雑談をしている時に、 「あ、麗奈」 そうやって間に割り込んできたのが、先輩だった。 先輩はそう麗奈に声をかけると、次に私の顔を見て、こう声をかけた。 「あれ?小夜ちゃんって、麗奈と友達なの?」 名前を呼ばれたのは、それが初めてだった。 その時に会話したことがきっかけとなり、私と先輩は麗奈を介して話すようになり、次第に二人だけでも話すようになった。  あの時に先輩が、私と麗奈が友達だということが気になったのは、まあ無理もない。 麗奈は美人で明るくて、どちらかというと目立つタイプ。 私は顔もスタイルも平均的で、大人しく、どちらかというと地味なタイプ。 対称的な組み合わせの私達に、先輩は素直に驚いたのだろう。  決して華やかではない自分の外見に、私は常日頃から劣等感を抱いていた。 しかしそんな私にも先輩は優しく接し、かわいがってくれた。 それは私がかわいいからとか、そういう訳では無く、「女の子だから」ということは、十分に分かっている。 その上で、こうして先輩の誘いに、素直に乗っている。          先輩が、「小夜ちゃん」ではなく、単に「女の子」を欲しているだけと、分かっていながら。
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