霞んだ春を

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 先輩のクズさは、前々から十分承知していた。 その上で、私は先輩と友達になったわけだし。 けれどメールが届いた時、クズだな、と改めて感じた。 見計らったようなタイミングで、平然とメールを送ってくるなんて。 先輩は、クズだ。 心から思うし、何度だって言える。  一方で、それは私にとって大変好都合なことでもあった。 二人きりで会うということはきっと、先輩は今女の子に飢えていて、女の子としての私を求めてくる。 そうなれば、キスとかもしてくれるかもしれない。 いや、先輩なら絶対してくれる。 何故だか、そんな確信を抱けた。 キスをして快楽を覚えれば、私はその為に、もう一度一生懸命恋愛を頑張れるかもしれない。 大多数の人間が感じられる楽しさを、自分も体感できるかもしれない。  それなのに、どうしてだろう。 キスをし、迫られても、私は何も感じない。 興奮も快楽も、そして楽しさも……。  無理なんだ、私には。  恋愛に、大多数の人間が楽しいと思うことに楽しさを見出だすことが。 そう分かると、心底落胆する。 十九にして、世の中や自分自身が退屈に思え、絶望を感じる。 つまらない。 少なからず楽しんでいるだろう先輩に、それを悟られるのだけはどうしても嫌だから、今はただ強がっていたかった。  「まだ、ポッキーいっぱい残っているんだけど、どうする?」 先輩が期待の目で、私を見る。 「ポッキーじゃなくて、フランだってば」 私は強がりながら、先輩の左手に掴まれたフランの袋に、そっと手を添える。 「やるよ、やろう」 一箱九本入りのフランは、残りあと七本。 せめてあと七回に、淡い望みを懸けてみたい。  片側を咥えられたフランが、目の前に差し出される。 私はまた、齧り付くように、自分に向けられたその先端を口に含んだ。
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