第2章: 2006年1月13日 トモキ@サザンビーチちがさき

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第2章: 2006年1月13日 トモキ@サザンビーチちがさき

「神野、さっき海岸を出て今家に戻っているよ。本日も特に異常なし。後はヨロシク。」  国道134号を横断する信号を渡る神崎の背中を見ながら俺は携帯から令にメールをうった。  令は見かけによらず面倒見がいいよな。まあ、今はオフシーズンで夕飯時は混まないのでいいけれど。と思い俺は茅ヶ崎海岸に隣接するレストラン兼自宅に駆け足で戻った。  冬休みに入る前、令から「和希に折り入って相談がある。」と部活後に言われた時はアイツに好きな人ができたのかと思った。  結局、好きな人ではなかったが女子絡みの相談だった。十一月にうちのクラスに転校してきた神野美香が放課後何をしているか、また無事に家に帰っているか様子を見たいので手伝って欲しいとの事だった。  正直、神野の事は俺も気にかかっていた。最初はクラスの女子は親切心から積極的に話かけていたが、一ヶ月程経つと誰も彼女に話しかけなくなったのだ。  親切心?いや好奇心からのコミュニケーションかもな。南湖の人は根は悪くはないが昔から顔馴染みの人同士で過ごしているからか、自分が見知らぬ土地へ行った時にどう感じるかの想像力が足りないところがある。時にその思慮浅さが人を傷つける事もあるっていうのを知らない人が多いんだよな。  クラスの男子が神野の名前が上下逆にしても読み方が同じとからかっていた時、俺は親父のあだ名であるアップさんの由来をお袋から聞いた時の事を思い出した。 「お父さんが小学校の時によく面倒を見ていた子がダウン症だったの。この辺では珍しかったみたいで、いつも一緒にいるからアップさんって誰かが呼び出して定着したみたい。」  それは俺が知る限りで一番最低なあだ名のつけ方だった。  神野は転校して来たばかりで大人しそうな子だったので言い返せないだろうと思い俺は「おい、その辺にしとけよ。」と低めの声で彼らを止めた。  彼らは俺が止めに入った事に少し驚いていたが、面倒なのはごめんだと思ったのかすぐ引き下がった。  神野は下を向いていたので泣いているかもしれないと思い「大丈夫か?」と声をかけると彼女は驚いたように顔を上げて俺を見た。  俺は初めて彼女の顔をじっくり見た。  浜育ちの俺らに比べ色が凄く白いのは気づいていたが、その色白の顔にある二つの瞳の色素もとても薄く緑がかったブラウンだった。
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