第2章: 2006年1月13日 トモキ@サザンビーチちがさき

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 彼女は俺の顔を五秒ほど見つめまた下を向いてしまった。  俺は仕方ないので「なんか困った事あったら言えよ。」と言って教室を出ようとしたら入口付近に令がいた。  令は大丈夫だったか?と聞いてきたので俺は特に問題はないと答えたが、神野はちょっと重症な気がした。  担任の川端先生はやっと神野がクラスに溶け込めてない事に気づきまずは学級委員の令に相談したようだ。  俺と令は保育園の時からの親友で共にヒーローを目指している仲だった。今回の川端先生の相談は行動範囲が広く関わる人も多いので令は迷わずパートナーとして俺を頼ってきてくれたんだろう。  令は横浜市内で生まれ四歳の時に南湖に引っ越してきた。彼らが今住む家はもともと令の祖父の家で、祖父が亡くなった後はしばらく空き家にしていたが、令の兄が大学進学したのをきっかけに引っ越してきたらしい。  初めて保育園で会った令は色白で典型的な坊ちゃんを髪型で表現しましたというくらいの見事なマッシュルームカットだった。  小さいのに既に読書家らしく保育園には毎週違う本を持ってきていた。  後日知ったが彼の祖父は作家だったらしく本が売れるようになってから騒がしい東京から離れ海の近くで漁村として情緒溢れる南湖に家を建て移住したそうだ。  きっと頭は良いけど鈍臭い奴なんだろうなと思ったが、令は意外に運動神経もよく保育園に併設されたアスレチックをスイスイこなし足も速かった。  なんでもできる令だったが彼の兄とは一回り以上歳が離れていたせいか同年代とのコミュニケーションが苦手みたいだった。  俺が通う保育園では一斉保育の時間がありボール遊びやかけっこなどを先生の指示の元で行っていた。令は一斉保育はきっちりこなすのだが、それ以外の時間は積極的に他の園児と遊ぼうとはしなかった。  夏が近づくにつれ両親が経営するレストランが忙しくなり俺のお袋は閉園ギリギリまで迎えに来なくなっていた。  令の母親は茅ヶ崎市役所で働いておりもともと閉園ギリギリまで迎えに来なかったので、俺は令の運動神経を見込んで一緒にボール遊びやヒーローごっこをしたかったのだが最初のうちは断られてしまった。  そんなに本を読むのが面白いのかよ。と恨めしそうに彼の読む姿を眺めながら俺はカベに向かって一人でボール遊びをしたり、他の園児と鬼ごっこをし親の迎えを待った。
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