第1章:2005年12月7日 レイ@神奈川県茅ヶ崎市南湖 水澤家

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第1章:2005年12月7日 レイ@神奈川県茅ヶ崎市南湖 水澤家

「神野美香(カミノミカ)ちゃんって令ちゃんと同じクラスなの?」  もうすぐ鮎の稚魚保護のためしばらく禁漁になる生シラスを台所から持ってきたお袋は俺に突然質問してきた。  お袋がクラスメイトの事を聞くのは珍しいなと思いながら、そうだよと答えた。 「美香ちゃんって神野先生の娘さんだな。クラスっていうか学校に馴染めたっぽいか?」  そしてこの日はさらに珍しく親父も会話に参加してきた。  俺は当時十一歳の小学五年生で休み時間に女子の事を観察するタイプではなかったが、親父の質問には容易に答える事が出来た。 「全然馴染んでないよ。今日担任の川端先生に相談されたくらいだし。」  神野美香は二ヶ月前に西濱小学校に転校してきた。  西濱小学校の生徒はほとんどが昔からのご近所さんで、ただでさえ新しい風が入ってこない。なので中途半端な時期の転校生の彼女にみんな興味深々で最初は積極的に構っていたが、何故か今は話しかける女子はいなかった。  彼女の親もこんな地域に時期を考えず転校なんて残酷な事をするなと思ったが、神野先生の娘さんだったのか。  神野先生は横浜にある公立大学の教授で目と鼻の先に住んでいた。うちの親父と同い年くらいの五十代前半だが、よく家事サービスの業者さんが出入りしているので、お金はあるけど結婚できないタイプの男の人なのかなと失礼ながら勝手に思っていた。  そのため同じ苗字だったが親子だとは考えていなかった。 「仲良くするのよ。令ちゃんも南湖に引越してきた側だから気持ちわかるでしょ。」  確かに俺も引越してきたが、小学校に入る前だったので大分状況が違うんじゃないのか?と思ったが引越しするタイミングをきちんと考えてくれた思慮深い両親に感謝すべきだな。  俺には兄がいたが十三歳離れており、待望の次男だったので家庭内での待遇はよかったと思う。  今の時期にこんな地域への転校は明らかに配慮不足だし、そもそも神野先生は美香という名前をつけるときにおかしいと気づかなかったのだろうか。 クラスの一部の男子から「上から読んでもカミノミカ、下から読んでもカミノミカ」とからかわれている彼女を思い出し同情した。 大学教授なんだからもう少しウィッティーな名前にすればいいのに。  お袋の言葉にすぐ素直に「うん。」と言わない俺を見て親父は言った。
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