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もうすぐ五時半。終業の時間だ。
私は、都内の某IT関連企業で働くOL。黒崎美沙。25歳。この会社に入社して三年目。
本日の必要業務は終了。既定の業務はもう終わったから、明日に備えて幾らか準備を兼ねた資料整理でもやっておこう。
きっちり終えて、さっと帰る。これが私のモットー。
先輩社員が近付いて来たのを見て、何かを察した。
「黒崎さん。どう? 今日これからちょっと」
やっぱり。予想はしていたけど。でも、答えは決まっている。
「申し訳ありませんが、帰ります」
「そ、そうか……」
なんなの? その溜め……。まあ、断る理由を確認してこないだけマシだけど。
「はは、黒崎さん。まあ、今日のところは。また次回ってことで」
割って入ったのは、西川課長だ。入社した時から私の上司として、随分と面倒見がいい。若くして管理職の彼は、もうじき部長になるとも囁かれている。上下分け隔てなく気が利くところは、世渡り上手とも受け取れる。けど、それ以上に何か下心も感じられ無くはない。
「すみません。今回は」
なんとなく、今回は、と付け加えたけど、もちろん、次回も、だ。
だいたい、当然行くよね? っていう、その雰囲気が気に入らない。
五時半以降は私の時間、侵害されてなるものか。
侵害すれば、どうなるか……。
……どうなるんだっけ? まあ、いいや。
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