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五時半を過ぎて退社した私は、姉の経営するクラブに寄る。
姉の経営するクラブは、職場から地下鉄で二駅のところにある。
高級バーのような内装で隠れた大人の社交場の様な雰囲気のその店は、会員制で財界人をはじめとしたVIP達のお忍びスポットとなっている。
私はカウンターに腰掛け、店長のマキに愚痴る。
背が高くゴージャスな赤髪の彼女、マキは姉の同級生で、五つ年上。
「ねえ、マキはなんで仕事なんかしてるの?」
「私はこの仕事好きだからね。ミサは不満なの?」
「そうだね。不満……」
言われてみれば、何だかわからない。今の仕事も別に嫌じゃない。不満要素は何なのか。強いて言うなら、もっと自然にこの社会に溶け込みたい。でも、深くは関係したくない。
「ミサもこの店で働いて、素直に欲望を満たしたら?」
「嫌よ。私はサラみたいにはなれないし、なりたくない!」
サラとは、私の姉。黒崎沙羅の事だ。
「もっと自分の好きなように生きなよ。サラのこの店は、私たちの性にあっていると思うけど」
「他人のお金も気力も吸い取るようなこの店が? 私はイヤ!」
興奮した私は、手にしたグラスを乱暴に置いた。
「ふふ、感情をコントロール出来てない。あなたホントに弱いわね。お酒は、ウチ以外で飲まない方が良いわよ」
「飲まないよ! 飲むわけないじゃん」
私はアルコールに弱いくせに、飲むのが好きだ。注意しなくちゃと分かっていても、誘惑に負けてしまう……。
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