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カガリの丘 そして病院へ
バンガローを去る時が来た。
しかしナガテはもう1つだけ気になる事があった。
それはカガリの丘にある祠の中の石仏だ。
ずっと向かい合っていた島が沈んでしまって、きっと寂しい思いをしてるんじゃないかと感じていたし、別れの挨拶もしたいと思っていた。
だから1時間だけもらって行く事にした。
1人で行くつもりだったが結局みんな付いて来た。
鏡川先生だけは病院の仕事が山積みになっているようで一足先に帰った。
丘に着くと冷たい風が吹き抜けていた。
祠に手を合わせ石仏を見て腰を抜かしそうになった。
顔がこっちを向いていた。
しかも驚いた事にヒババの顔そっくりだった。
それに真正面を向いてなくて少し斜めを向いていた。
嶋崎はしきりに会った事があるような顔だと訴えた。
「東都の方向はどっちだっけ?」
みんなあっちじゃないとヒババの石仏が向いた方を指さした。
「東都に帰らなきゃね。」
カガリを見ながら呟いた。
「ここには昔お社が建っていたの。
ある時大風が来て殆ど倒れてしまった。
だけどお社を作った木はご神木で出来ているって言い伝えがあったから村人はそれをかき集めて保存したの。
その場所がこの下のわたし達がいたあの家の近くだった。
まだ私は子供だったけどヒババとたっちゃんと村の人達で船を作る材料にした。保存してあったご神木だけじゃ足らなかったけどそれで出来上がったのがたっちゃんの船なの。
だからたっちゃんはいつもあの船を大事にしてる。
でももうたっちゃんはここにはいないの。
東都に向かうって言ってたから...
今どのあたりにいるのかな。
きっとまだ船上の人よね。」
カガリは真面目な顔で話した。
ボクはあの島の湧き水をお供え台の穴に注いだ。
ヒババの石仏が微笑んだように見えた。
バンガローを掃除して社長のレンタカーで出発した。
ボク等はもう腹ペコで死にそうだった。
途中ファミレスで遅いランチを食べた。
相変わらずカガリの食欲には際限がなく止めさせるのに一苦労した。
何人かの客に顔バレしてサインに応じた。
病院に着くとメディアがかなり待ち構えていたので裏口の救急から入った。
病室前でも呼び止められたが強引に部屋に入った。
やっとひと息ついたと思ったらカガリの姿がなかった。
嶋崎が探しに出ようとすると扉が開き鏡川先生がカガリを引っ張って来た。
「この娘ったら記者の質問に応えてたわよ。
大丈夫かしら。何て言ったの?」
「え?あの人達の言ってる事が分かんなくて何にも言わなかったよ。
ただ私はナガテにとって凄く大事な人です。」としか...
ボク達は顔を見合わせてゲラゲラ笑った。
この病院での最後の検査を受けて明日東都に帰ることが決まった。
近くのビジネスに宿をとって社長とカガリと嶋崎は泊まることにした。
カガリは最後までここで寝ると言って聞かなかった。
でも社長がカガリの事をもっと知りたいし、いい機会だから一緒の部屋で食事してお話しながら寝ましょう。
と言う事で落ち着いた。
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