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異変
東都湾上空の画像がTVに流されるのをナガテとカガリは食い入るように見入った。
青い海の大部分が黒色に広がり中心部は海底から湧き上がる波で膨れていた。
以前も海が変色して騒ぎになったが、今回の状況は容赦ない自然の試みが起こる前触れのように感じた。
地質学者や火山の専門家は口を揃えて海底火山の活動が活発になっているとし、海底地形的に新島が出来る可能性は低いとコメントしていた。
カガリはナガテの手を強く握り、
「始まっちゃったのかな...」
と力無く呟いた。
「これからどうなるんだろう?
何をすればいいのかな...?」
ナガテはTVを見ながらカガリに尋ねた。
「うん...
このまま続けば島が生まれるのかな?
もしそうなったらこの国は大変なことになる。
ヒババがそう教えてくれた...
でも...詳しい事は全然分かんないよ。」
カガリも不安そうに言った。
「今のところは島になるのかどうか分かんないから、
様子を見るしかないね。
近いうち噴火が見える湾岸公園に行ってみるのもいいかもね。」
ナガテが言うと、
「行こうよ、ねっ!
ナガテ。
2人で公園いこ。
それで何か美味しいもの食べようよ。」
「そうしようか。」
ナガテはカガリの真意が可笑しくて
握った手にキスをした。
それから湾内の状況は変わらなかったが、海面の色は黒白緑茶と変化するだけで火山が出来る様子はなかった。
2人は数日後、湾岸公園に行くことにした。
どうしても時間が合わず夜になった。
ナガテにしてみたら都合良かったが、
湾内の海面変化は見れなかった。
でも月の光で薄っすらと見える沖の海面が時折ピカリと光った。
やはり現場に来ると空気が違うし所々で立入禁止区域も目にした。
夜の海風は肌寒くナガテはカガリの肩を抱きしめて歩いたが風向きによって少し硫黄の匂いがした。
「ねえ...ナガテ...
わたしのお腹には子供がいるの知ってるでしょ。
わたしとナガテの赤ん坊...」
ナガテはカガリの言葉が突然で突拍子もなく衝撃的過ぎて...
思考能力が止まってしまった。
「カガリ...ボクの...
カガリ...赤ん坊?...」
言葉にならず口の中がカラカラになった。
こんな大事な話を普通に当り前のようにサラリと言ってニコニコしているカガリの顔をナガテはどういう顔をして見ていいのか分からなかった。
そして島で過ごしたカガリとの事が竜巻のように頭をめぐり、
思い出すと彼女の言葉の節々に赤ん坊が顔を出していた事に気づいてナガテは泣きたくなるような衝動を抑えつつも、喜びと感激の気持ちが涙と共に溢れた。
冷たいカガリの頬を手のひらで包みキスをした。
しかし...
ナガテは思い悩んでいた。
雪帽子島は過去に繰り返されて来た人間を戒める象徴だったのに、
島の沈没はこの国の破壊と再生を始めるスイッチが押されてしまった。
それは自分の責任だと.....
そして
あの丘で聞いたカガリの伝説がこれから蘇ろうとしているのだと....
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